新型コロナウイルスの配列が感染細胞ゲノムに紛れ込む
Free!なんとも不気味で現時点では良いのか悪いのかわかりませんが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ゲノム配列は場合によるとレトロトランスポゾンの働きでヒト感染細胞のゲノムに紛れ込めるようです(1)。
ヒトゲノムに存在する可動領域・レトロトランスポゾンは殆どの細胞で発現が抑制されています。しかし、SARS-CoV-2を含むコロナウイルスに感染した細胞ではレトロトランスポゾンの発現が亢進します(2)。
RNAウイルスの幾つかはそのレトロトランスポゾンに繋がり、連れ立って感染細胞のゲノムに収まりうることが10年以上前から示唆されています(3)(4)。
そして最近の研究によるとSARS-CoV-2のゲノム(RNA鎖)の断片もレトロトランスポゾンと連結可能です(2)。
SARS-CoV-2のゲノム断片は数あるレトロトランスポゾンの一つ・LINE1と特に融合体(キメラ)を形成しやすく(2)、LINE1を過剰発現したヒト細胞にSARS-CoV-2を感染させたところSARS-CoV-2のゲノム配列が感染細胞のゲノムから検出されました(5)。すなわちSARS-CoV-2のRNAゲノムの一部はLINE1が過剰発現しているとDNAに置き換わってヒトゲノムに紛れ込めるようです。
これらの結果は培養細胞での実験に基づくものです。今後の課題として感染患者の細胞ではどうなのかを検討する必要があります
そのような研究で感染者のゲノムからSARS-CoV-2のゲノム配列が確かに検出されたら次はその意義が調べられるでしょう。
たとえばヒトゲノムに紛れ込んだSARS-CoV-2ゲノムの欠片は感染患者に認められている自己免疫病態・ギラン・バレー症候群(6)などの長引く後遺症の引き金になっているのかもしれません(5)。
一方、悪いことばかりではなさそうで、ヒトゲノムに納まったウイルスDNAは感染防御を引き出してくれる可能性があります。
20年以上前のNatureに掲載された報告ではリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)のRNAがDNAに置き換わってマウス体内に長く存在し続けることが示されており、著者はそういうウイルス起源DNAがワクチンのような働きをするのではないかと推測しています(7)。
もしヒトゲノムに統合されたSARS-CoV-2の配列が発現して抗原の役割を担うなら免疫が絶えず刺激され続けて感染防御の砦を築けるかもしれません(5)。しかしそれは諸刃の剣で、上述したような自己免疫疾患などの事態の火種になる恐れもあります。
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