【Lancet】2006年9月30日のLancet誌のArticlesの日本語解説です。
- 2006-09-30 - 2006年9月30日のLancet誌のArticlesの日本語解説です。
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目次
◇低リスク患者の冠動脈疾患は低用量スタチンで予防できる
◇1回目と2回目の妊娠の間に太った女性は2回目の妊娠で苦労する
◇カルシウムチャンネルブロッカーやαブロッカーは尿結石治療に有効
◇アフリカの女性は母性衛生問題(maternal health issue)を熟知しているし、それを解決したいと思っている
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該当するデータが見つかりませんでした。
http://www.biotoday.com/view.cfm?n=15353
これまでにも、貧しい国の女性を対象にした妊娠リスクの調査は実施されています。
しかしそれらの調査では、知識や行動の変化を促す健康教育“介入”の開発を目標として、各々の女性の知識のギャップや誤解にしか注目していませんでした。
今回Lancet誌に発表された報告では、これまでに実施された調査のような個人レベルを対象にしたものではなく集団レベルで、マラウイの田舎の女性が自分たちがどのような妊娠問題に直面しており、それらの問題をどのように感じているかを調査しています。
この調査ではマラウイの女性を204グループに分け、それぞれのグループでディスカッションし、彼女たちが直面している母性衛生問題を同定し、数ある問題の中でも何が最も重要かを決定しました(優先順位付け)。
このグループディスカッションの過程において、彼女たちは母性衛生問題(maternal health issue)を熟知しており、それを解決したいと思っていることが明確になりました。
これまでの個人を対象にした調査では彼女たちの認知度は低いと示唆されていました。
しかし今回の研究から、そんなことはなく、彼女たちは自分たちの母性衛生問題をきちんと把握し、それを解決したいと思っていることが明らかになったわけです。
グループディスカッションの様子はLancet誌の報告に写真で掲載されています。(この文献は無料ですので、Lancetに会員登録すれば全文閲覧できます)
▽Figure 2. A MaiMwana women's group discussing maternal health problems in the community
http://images.journals.elsevierhealth.com/images/journalim
\nages/0140-6736/PIIS0140673606694750.gr2.lrg.gif
この研究はこれで終わりかというと、そうではありません。
実はPhase1からPhase4まである「マラウイの母性衛生問題の解決戦略」ともいうべき壮大なプロジェクトの始まりに過ぎません。
研究者等は、当事者である女性グループに彼女たちが感じている母性衛生問題を顕在化させ、それらの優先順位を付けさせ、問題の原因となっている要素を考えさせ、問題の管理方法を同定させ、続いて男性とのディスカッションの場を設けます。
以上がPahse1です。Phase1は8回のミーティングで構成されており、今回Lancetに報告されたのは、このPhase1の5回目のミーティングまでの結果となっています。
Phase1に続くPhase2では問題解決の戦略を打ちたて、その問題の可能性や障害を議論し、地域全体でこの戦略について話し合います。
続くPhase3。これはいよいよ戦略の実行です。そしてPhase4で戦略の効果を査定します。
Phaseの詳細は以下に記されています。
▽Figure 1. The action cycle of the women's group community
http://images.journals.elsevierhealth.com/images/journalim
\nages/0140-6736/PIIS0140673606694750.gr1.lrg.gif
これらのPhaseでの話し合いは全て地域の人々によって実行されます。
すなわち外部から“介入”ではなく、自分たちで問題をあぶり出し、そしてその解決策を話し合い、実行し、評価します。
何と壮大で美しいプロジェクトでしょうか。押し付けではなく、内なる声を掬い上げてその声を問題解決へと昇華させていく。
このプロジェクトを企画し、運営している研究者は、このようなプロセスこそ最も強力で本質的な問題解決方法であることを認識しているのだと思います。
このプロジェクト全体を知った上でこの文献の以下の結びの言葉を読むと研究者等の気持ちがよく伝わってきます。
“..and the participation of women in finding solutions to the huge risks of pregnancy in Africa is possibly the most important part of the solution.”(アフリカでの妊娠に伴うリスクの解決方法の究明に当事者であるアフリカ女性自身が参加することは、母性衛生問題解決において最も重要なことであるといえるでしょう)
マラウイの女性たちのミーティングの様子を実際に見て、彼女たちの切実な想いや、問題解決に向けた熱意を肌で感じた研究者等だからこそこの言葉で文献を締めくくれたのでしょう。
自らの問題を自らの力で解決していく方法を一旦習得すれば、その地域の人々はそのプロセスを応用して他の問題も解決していけるに違いありません。
地域のパワーを引き出してあげること、これこそ最も強力な国際協力なのかもしれません。