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食欲増進物質の働きを抑え食欲抑制物質の働きを強化するC75という不思議な薬

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2002-06-01 | コメント

人は空腹になると視床下部という脳の一部から食欲増進物質(NPY、AgRp)が分泌されてものを食べます。一方満腹になると同じく視床下部から食欲抑制物質(POMC、CART)が分泌されてものを食べなくなります。

ジョンズホプキンス大学の科学者等によって、食欲増進物質の働きを抑える働きと食欲抑制物質の働きを強化する働きを併せ持つC75という不思議な薬が開発されています。

このC75をマウスに投与したときの実験結果が2002年2月19日付けのPNAS誌に発表されました。(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 99, Issue 4, 1921-1925, February 19, 2002.Differential effects of a centrally acting fatty acid synthase inhibitor in lean and obese mice )

実験では肥満マウスと痩せマウスを用意し、それぞれにC75を数日間にわたって繰り返し投与して食欲、体重、血中の脂肪量がどのように変化するかを調べました。

この結果、C75を投与した初日すぐに肥満マウス・痩せマウスともに食欲が劇的に低下しました。肥満マウスはC75投与直後にほぼ食欲が消失し、痩せマウスでは食欲が半分になっていました。

しかしながら、その後数日間に渡ってC75を投与すると、肥満マウスと痩せマウスで正反対の反応がおこりました。肥満マウスでは2日目以降もC75による食欲低下作用が持続して体重も減少し続けたのに対し、痩せマウスではC75を投与したにも関わらず食欲がほぼ正常に戻ったのです。また、面白いことに、C75の投与を継続して体重が一定レベル以下になると、肥満マウスにおいても痩せマウスのときと同様に食欲が正常化するとわかりました。

すなわち、肥満状態では食欲なくさせて体重を正常化させ、体重が正常値に近づくと食欲を復活させて痩せすぎないようにするという「体重管理の作用」がC75にあるとわかったのです。これは痩せ薬としてもってこいの性質です。

マウスには注射で投与しましたが、口から摂取できる製剤をヒト用に開発しているそうです。C75を開発している科学者曰く、経口剤化するには2年ほどかかるとのことです。実際にわれわれが使えるようになるまでにはまだしばらく時間がかかりそうですが、マウスの実験結果がヒトに当てはまるとすれば楽しみな薬です。

■ Amgen社(AMGN)の痩せ薬・レプチン

ところで、上述した試験で用いた肥満マウスですが、どうやって作るのかというと「レプチン」というホルモンの遺伝子を壊すことで作ります。レプチンは脂肪細胞から分泌されて脳の視床下部に作用し、食欲を抑制します。したがってレプチンが作れなくなると食欲は満たされることがなくなり、際限なく太っていきます。このことから、レプチン遺伝子を欠損したマウス(レプチン遺伝子欠損マウス)は肥満のモデル動物として使用されます。

肥満のモデルマウスは人工的にレプチン遺伝子を壊してレプチンを作れないようにします。一方、生まれながらにしてレプチンを作れない、あるいは作れてもほんの僅かという「無レプチン症」が存在します。そんな「無レプチン症」になると、食欲をコントロールできないため血液中に絶えず糖分がたまるようになり、脂肪肝・高血糖・高脂血症などの状態に陥りやすくなってしまいます。

そこで、体外からヒト組替レプチンを投与することで、「無レプチン症」の人におこる脂肪肝・高血糖・高脂血症といった病気を治療できるかどうかが臨床試験で確かめられています。ヒト組替レプチンの販売権はアムジェン社が保有しており、アムジェン社がスポンサーとなって臨床試験が進められています。

ヒト組替レプチンを9人の無レプチン症患者に服用してもらったときの臨床試験結果が2002年2月21付けのNEJM誌に発表されました(Volume 346:570-578.Leptin-Replacement Therapy for Lipodystrophy)。

この結果、ヒト組替レプチンの服用によって、試験に参加した無レプチン症9人全員の脂肪肝・高血糖・高脂血症が改善していました。また、9人のうち8人は糖尿病でしたが、ヒト組替レプチン投与によって血糖値が低下し、インスリン分泌量が顕著に低下していました。すなわち糖尿病の治療効果があったのです。

レプチンは、もともとは食欲を調節するホルモンとして発見されました。しかし最近になって、食欲を調節する以外にも体内の栄養バランスを調節する働きもあることがわかってきました。したがって、レプチンを作れない無レプチン症の人たちは、単純に食欲が増すというわけではなく、体内の栄養バランスを崩してしまうのです。例えばヒト組替レプチンの臨床試験に参加した1人患者の試験開始時の肝臓の容積は4kg以上もあり、脂肪をたんまりと溜め込んで異常に膨れ上がっている様子がCTスキャンによりはっきりと示されています。幸い、ヒト組替レプチン投与によってこの患者の肝臓容積は約半分に減っています。

その患者のほかにも、9人全員の栄養バランスが劇的に改善しました。こんな良い薬は手放したくないということで、この試験に参加した9人全員が試験終了後もヒト組替レプチンの継続投与を望みました。手放すのが惜しいほど効いていたのです。実際その願いが叶って、9人とも今でもヒト組替レプチンを服用しています。

この9人の患者に対する優れた効果から判断して、ヒト組替レプチンは無レプチン症の治療薬として4-5年以内に販売承認をもらえると思います。Amgen社を応援する人にとって、小粒ながら楽しみな薬がもう一つできました。

△Differential effects of a centrally acting fatty acid synthase inhibitor in lean and obese mice
http://www.pnas.org/cgi/content/abstract/99/4/1921
△Leptin-Replacement Therapy for Lipodystrophy
http://content.nejm.org/cgi/content/abstract/346/8/570

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