インスリンやAβを食べる“パックマン”酵素の新たな基質認識メカニズムが分かった
Free!インスリンやβアミロイド(Aβ)を分解するメタロプロテアーゼ・インスリン分解酵素(Insulin-degrading enzyme、IDE) の構造解析の結果から、新しい基質認識メカニズムが明らかとなりました。
この酵素はパックマンのようにフレキシブルな蝶番(ちょうつがい)で結ばれた2つの半球でできています。この半球は留め金でとまっており、基質がパックマンの口の中に入っていくのを遅らせています。また、基質がパックマンの口から出て行くのも遅らせます。
留め金の機能を障害させる変異を起こしてこのパックマン酵素の口が開いた状態を促進したところ、野生型の酵素に比べてこの変異酵素は基質をよりすばやく取り込み、分解してすばやく放出しました。すなわち変異によって開いた状態を保つと酵素活性が上昇しました。
IDEは1949年にI. Arthur Mirsky等によって同定されました。その後IDEを阻害するとインスリンの効果が増強することを示す研究データが得られ、IDE阻害剤は糖尿病の治療薬として有望とみなされるようになりました。
しかしIDE阻害が悪影響を及ぼす可能性があることも分かっています。最近の研究で、アルツハイマー病の原因と考えられるAβをIDEは分解すると分かったからです。アルツハイマー病予防という観点からはIDEは阻害した方が良いことになります。
また、マウスの実験で、IDEを欠損すると予想通り空腹時にはインスリンレベルが上昇するものの、IDE欠損マウスは耐糖脳異常を発現することが確認されています。さらにIDE欠損マウスでは脳内のAβタンパク質レベルが上昇しました。
一部の糖尿病は、IDEが多すぎるというよりは少なすぎることで起きており、慢性的なインスリンレベルの亢進はインスリン抵抗性を生じさせるのかもしれません。
いずれにしても、IDEの構造が分かったことで、IDEの活性化剤や阻害財の開発の道が拓けました。留め金を標的にしてIDEをオープン状態に保たせるIDE活性化剤の開発はかなり困難と思われますが、IDEの活性化領域を標的にした阻害剤なら比較的に簡単に開発できるかもしれません。
マウスの実験では慢性的なIDE阻害は耐糖脳異常を引き起こしましたが、一過性にIDEを阻害することは慢性的な阻害とは違った結果が得られる可能性があります。
IDEの阻害はAβの分解も阻害してアルツハイマー病を悪化させる可能性がありますが、血液脳関門を通過しない分子をデザインすれば脳内のAβには影響を与えずに済むでしょう。

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Structures of human insulin-degrading enzyme reveal a new substrate recognition mechanism. Nature advance online publication 11 October 2006
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Structural biology: Enzyme target to latch on to. Nature advance online publication 11 October 2006
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