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【NEJM】注意欠陥多動性障害(ADHD)の治療に使用する興奮剤の添付文書に心血管リスクに関する黒枠警告を追加すべきとFDAの諮問委員会が勧告した理由

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2006-03-21 | コメント

2006年2月9日に、FDA諮問委員会は、注意欠陥多動性障害(ADHD)の治療に使用する興奮剤の添付文書に心血管リスクに関する黒枠警告を追加すべきという勧告を8対7という僅差で採用しました。

この勧告は予想外のことでした。というのもFDAはADHDに対する既存の興奮剤のレビューを諮問委員会に要請していたわけではないからです。



この諮問委員会のコンサルタントの1人・Steven E. Nissen氏が、「なぜ諮問委員会が予想外の結論を出したか?」という理由をまとめた報告をNEJM誌に発表しています。以下、このNEJM報告の解説です。



2月9日の諮問委員会でレビューされたのはアンフェタミンとメチルフェニデート製剤です。これらの薬剤は、交感神経様作用アミンと非常に良く似ており、神経と心血管系に対する強力な刺激作用を有しています。



最も古い薬剤の1つ・メタンフェタミンは1891年にはじめて合成され、長期間戦闘におけるLuftwaffeパイロットの覚醒状態亢進を目的としてナチスドイツによって第2次世界大戦中に広く使用されました。



メタンフェタミンの吸引または注射で、高体温、横紋筋融解、心筋梗塞、脳卒中、突然死といった症状が発現することが分かっています。



1950年代の初めから、メタンフェタミンの立体異性体であるデキストロアンフェタミンや関連化合物が食欲抑制剤として出回るようになりました。



ADHDは学童に一般的な病気です。女児よりも男児に多く認められます。過活動、集中できない、学校の成績がよくないなどの症状がADHD児童には認められます。



ランダム化臨床試験において、ADHDに対する興奮剤の有効性が詳しく記述されています。アンフェタミンやアンフェタミン様の興奮剤は1950年代にADHD治療薬として使われるようになりましたが、ADHDの診断頻度とこれらの興奮剤の使用頻度はここ数年特に上昇しています。



FDAの諮問委員会では、アメリカの10歳の少年のおよそ10%を含むおよそ250万人がADHDの治療のために興奮剤を使用していると説明されました。



また、FDAの諮問委員会では、ADHDという診断がアメリカほど一般的ではないヨーロッパでは、これらの興奮剤の使用はさほど普及していないという説明もされました。



ひときわ目立つのは、150万人の成人が毎日興奮剤を使用し、その10%は50歳以上であるということです。成人をADHDと診断するようになったのは最近のことであり、成人のADHDの診断の増加によりこれらの薬剤の使用が急激に上昇しています。



交感神経様作用アミンの心血管系への影響は医学文献に詳しく記されています。これらの薬剤は心拍と血圧を上昇させます。プラセボコントロール試験において、混合アンフェタミン(Adderall)を服用した成人の収縮期血圧がおよそ5mmHg上昇しました。メチルフェニデートでも同様の作用が確認されています。



この血圧変化は、病的状態や死亡を上昇させることが分かっています。特に長期間持続した場合にはこれらのリスクが上昇します。



さて、このクラスの薬剤に関する規制の歴史をレビューすることは、2006年2月9日のFDA諮問委員会の勧告を説明する上で助けになるでしょう。



かつてダイエット薬として広く販売されていたエフェドラには2種類のアルカロイド(エフェドリンとその光学異性体・偽エフェドリン)が含まれています。これらのサプリメントは、エネルギーを上昇させて体重を減らす薬剤としてアメリカ人の多くが使用していました。パフォーマンスを増強する物質としてエフェドラ含有サプリメントを推奨した運動選手もいました。



2003年12月31日、エフェドラ製品に関連した悲惨な出来事をうけてアメリカ政府はエフェドラの販売を即刻中止にする計画を発表します。例えばバルチモアオリオールズの23歳のピッチャー・Steve Bechler氏はエフェドラ製品の使用で死亡しました。



公表された報告によると、エフェドラ関連製品の売上げはサプリメント全体の売上げの1%未満ですが、Centers for Disease Control and Preventionに報告されたサプリメント関連の重篤な有害事象の実に64%はエフェドラ製品に起因するものでした。



残念ながら、2005年4月に、ユタ州の連邦裁判所は政府によるエフェドラ製品の禁止を却下しました。現在、エフェドラ関連製品を作っている会社の多くはユタ州を本拠としています。



交感神経様作用アミンに非常に良く似たフェニルプロパノラミン(PPA)に対しても同様の規制が実施されようとしています。2005年12月22日に、FDAはPPAを含む鼻づまり薬または体重コントロール薬に関する規定作りを宣言しました。FDAのこのアクションは、PPAが出血性脳卒中を引き起こすという長年の懸念に基づいています。6年前にNEJM誌に発表されたケースコントロール試験において、食欲抑制にPPAを使用している女性では脳卒中のリスクが16倍上昇するという結果が得られています。



2月9日の諮問委員会に対して用意されたBriefing documentsに、ADHDに対して興奮剤を使用している小児と成人における心筋梗塞、脳卒中、突然死の症例が記述されています。この記述はFDAのAdverse Event Reporting System (AERS) から派生したものです。AERSはヘルスケア提供者からFDAへの有害事象報告が登録されたデータベースです。



AERSは批判の的になっています。というのも実際に発現している有害事象のおよそ1-10%足らずしかAERSには報告されておらず、新たな薬剤の危険を同定する上での有用性は制限されていると考えられているからです。



FDAの諮問委員会は、小児または成人に出現した突然死を含むADHD治療薬関連有害事象をレビューしました。生検の結果から、突然死を起こした患者の中には閉塞性肥大型心筋症等の未診断の先天性心疾患を有している例も認められました。閉塞性肥大型心筋症を有する人は交感神経興奮様薬の有害作用を影響を受けやすくなります。というのも、これらの薬剤は収縮性を亢進して、左室流出路の圧力勾配を上昇させるからです。



FDAの諮問委員会は、心筋梗塞、脳卒中、重篤な不整脈などの重大な有害心血管イベントについてもレビューしましたが、症例の記述が不完全な場合が多く、FDAレビュアーも諮問委員会メンバーもAERSデータは信頼できないと判断しました。



これらのデータを解釈することは困難でしたが、上述したように、諮問委員会は先制して強力な規制活動を勧告しました。



諮問委員会のメンバーの大部分は、交感神経様作用薬は血圧と心拍を上昇させる傾向があり、ADDH治療薬使用者が急激に増えていることから強力で早急なアクションが必要であるというNissen氏の主張を受け入れました。また、このクラスの2つの薬剤(エフェドラとPPA)に関連した重篤な有害事象の歴史についてもメンバーの大部分が了承しました。



諮問委員会は、高度な機能不全に陥った特定の小児においてはこれらの薬剤が重要なベネフィットを有する可能性があると認識しています。しかし、強力な交感神経興奮剤を数百万人ものアメリカ人が服用するという考えには諮問委員会は反対しています。



諮問委員会は、有害な作用に関する自覚を高めつつ、より選択的で限定された使用を強調したいと考えています。FDAは早急に断固として行動を起こすべきです。

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