Merck社 Vioxxでおきた3例の心筋梗塞を知っていて報告しなかった疑い
Free!Merck社の資金提供を受けて実施されたVioxx(Rofecoxib)vs ナプロキセン(naproxen)の臨床試験・VIGORの結果が2000年11月のNEJM誌に発表されました(N Engl J Med. 2000 Nov 23;343(21):1520-8, 2 p following 1528.)。
「この報告(2000年NEJM報告)の心血管有害事象に関する解析や結論は正しくないのではないか?」という疑問がNEJM誌のオンライン上で提起されています。
VIGOR試験では、リウマチ患者を対象にして、ナプロキセンとVioxxの胃潰瘍や消化管出血の発現率を比較しました。予想通り、9ヶ月の試験で、Vioxxの方が胃潰瘍や消化管出血の発現率が低いという結果となりました。
しかしながら、VIGOR試験の結果、Vioxx使用者で心筋梗塞の件数が多いと分かりました。この報告でMerck社は、ナプロキセンには心臓保護作用があると説明しています。
著者等は、Vioxxでおきた心筋梗塞の患者数を2000年NEJM報告では17人としていました。しかし、Vioxx服用中に心筋梗塞をおこした患者は他に3例おり、その3例は2000年NEJM報告に含まれていませんでした。
NEJM誌の編集者は、アメリカFDAが2001年に公開したアップデートデータで、心筋梗塞は実際には他に3例あり、合計20例であったことを知っていました。
2000年NEJM報告は2000年11月23日に発表されました。NEJM誌の編集者は、追加の3例は試験後半におきたイベントであり、2000年11月23日の掲載までに著者等が知りえなかった情報であると信じていました。
しかしながら、Vioxxに関する裁判で明るみとなった2000年7月5日付の資料によると、2回の校正の1回目が提出される2週間以上前(2000年NEJM報告が掲載される4.5ヶ月前)に、2000年NEJM報告の少なくとも2人の著者は残りの3例の心筋梗塞の存在を知っていました。
2000年7月5日付の資料によると、これら3例の心筋梗塞のデータを文献に追加するのに十分な時間があったと考えられました。
これら3例のデータが欠損していたことで、特定の計算と結論が間違っていた可能性があります。VIGOR試験では心筋梗塞のリスクをナプロキセンと比較していますが、3例を加えると相対リスクなどが異なってきます。
また、2000年7月5日付の資料には、2000年NEJM報告に関連した心血管系の有害事象データが含まれていました。コンピューターのデータを見返したところ、2000年7月5日付の資料に掲載されている心血管系有害事象の情報のある部分が、NEJM誌に文献掲載依頼される直前に消し去られていたことが明らかとなりました。
以上より、データが不正確であることやデータが削除されていることなどから、2000年NEJM報告における心血管有害事象データの整合性は甚だ疑問と言わざるを得ません。NEJM誌は、2000年NEJM報告の著者に対して、訂正を求めています。
NEJM誌の問題提起報告に対し、Merck社は「追加の心臓発作を加えても、文献の結論の本質が変わることはない」と返答しています。また、文献に3例を含めなかった理由については「データ収集のカットオフ日よりも後に報告されから」と説明しています。
Merck社は続けて、「試験には3例を含めなかったが、これら3例の追加情報は2000年にFDAに通知しており、2001年にFDAの諮問委員会によって公開されている。」とも言っています。
しかし問題提起したNEJM誌の編集者・Gregory D. Curfmanは、Merck社のカットオフ日に関する説明は屁理屈にすぎないといっています。なぜなら、ジャーナルに掲載される文献は、出版される数週間前まで新しいデータで定期的にアップデートされる必要があるからです。Curfman氏曰く「何千という多くの人々の健康が一つ一つの文献で左右される」。
新たな心筋梗塞の3例はいずれでも致死性ではありませんでした。しかし、3人は全て心筋梗塞のリスクが低いと考えられる人でした。
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