【Lancet Neurology】2006年7月のLancet Neurology誌のArticlesのサマリー
Free!2006年7月のLancet Neurology誌のArticlesの日本語サマリーです。
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目次
◇多発性硬化症の再発管理に用いる静注ステロイド薬は安全・効果的に在宅で投与できる
◇REM睡眠行動障害は神経変性疾患の早期マーカーかもしれない
◇パーキンソン病の視床下核脳深部刺激術による認知障害は軽度である
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◇多発性硬化症の再発管理に用いる静注ステロイド薬は安全・効果的に在宅で投与できる
Home versus outpatient administration of intravenous steroids for multiple-sclerosis relapses: a randomised controlled trial. Lancet Neurol. 2006 Jul;5(7):565-71.
多発性硬化症(MS)の再発治療には静注用ステロイド薬がルーチンに用いられますが、外来または在宅環境での投与も可能です。試験環境において2つの使用方法(外来または在宅)を比較しうるMS再発管理スケール(MSRMS)が開発されています。
この文献は、再発後4週間以内の多発性硬化症患者を対象として、ステロイド治療(静注用メチルプレドニゾロン3日間投与)を外来患者向けクリニックで行った場合と在宅で行った場合の再発管理、有効性、コストをMSRMS等を指標として比較した試験の結果を報告しています。
MSRMSの評価項目の一つ・治療コーディネーション(coordination of care)は在宅投与グループが病院投与グループを有意に上回りましたが、MSRMSの他の項目では差が見られませんでした。ステロイドの在宅投与と外来通院投与の有効性・安全性は同等でした。在宅投与と病院投与のコストは同等または在宅投与の方が低くなっていました。
以上の結果から、患者にとっても、また経済的な観点からも、静注用ステロイド薬による多発性硬化症再発治療は在宅で効果的かつ安全に行えるとわかりました。この試験から、健康政策に関する決定を行う際に、提供する医療サービスの全側面を明確かつ効果的に測定することが重要であることも示されました。この所見は、経過の長い疾病のための複合的サービス提供ケアモデルを示唆するものです。
◇REM睡眠行動障害は神経変性疾患の早期マーカーかもしれない
Rapid-eye-movement sleep behaviour disorder as an early marker for a neurodegenerative disorder: a descriptive study. Lancet Neurology 2006; 5:572-577
レム(REM:rapid-eye-movement/急速眼球運動)睡眠行動障害(RBD)は、夢と同じ動きをすることを特徴とする睡眠時異常行動であり、この行動にはREM睡眠中の不快な夢と筋無力状態の欠如が関係しています。RBDは特発性のこともあれば神経疾患と関連があるかもしれません。RBDが神経変性疾患の初期症状である可能性を示唆するデータが存在します。
この文献は、著者らの睡眠研究所で特発性RBDと診断された患者を対象にして、神経疾患の発症頻度と性質を調査した結果を報告しています。特発性RBDの診断後少なくとも2年間の継続的臨床フォローアップを受けた44名の患者について、詳細な臨床歴、綿密な神経学的検査、パーキンソニズム評価スケール、神経心理学的検査による遡及的な評価を行いました。
RBD発症の報告から平均11.5年後、睡眠研究所での特発性RBDの診断から平均5.1年後に20名(45%)の患者が何らかの神経疾患を発症しました。内訳はパーキンソン病9名、レビー小体型認知症6名、小脳症候群を主とする多系統萎縮症1名、視空間機能障害が顕著な軽度認知障害4名です。臨床フォローアップをより長く受けた患者ほど神経疾患の発症率が高くなりました。
以上の結果から、睡眠研究所に通院する患者では、神経変性疾患の発症に先立ちRBDが頻繁に見られることがわかりました。特発性RBD患者を詳細にフォローアップすることで神経変性疾患の早期発見が可能になるかもしれません。この所見は早期の効果的治療法や神経保護薬が開発された際には大いに役立つでしょう。
◇パーキンソン病の視床下核脳深部刺激術による認知障害は軽度である
Cognitive sequelae of subthalamic nucleus deep brain stimulation in Parkinson's disease: a meta-analysis. Lancet Neurology 2006; 5:578-588
視床下核脳深部刺激術(deep brain stimulation of the subthalamic nucleus/STN DBS)はパーキンソン病の治療法として一般的になりつつあります。定性的レビューでは、STN DBS後には語の流暢性の低下が多く見られるが、全体的な認知能力・注意・遂行機能・記憶の変化は一様ではなく、あってもわずかであるか一過性のことが多いと結論されています。
この文献は、STN DBS後の認知機能障害の可変性と臨床的重要性の理解を深めることを目的として実施した定量的メタ解析の結果を報告しています。
1990年から2006年までに出版された記事をWebデータベースのMedLine・PsycLIT・ISI Web of Scienceから検索し、以下の情報を抽出しました。
患者数・除外クライテリア・微小電極記録によるターゲット確認・X線撮影による電極留置の検証・刺激パラメータ・評価時点・評価法・レボドパ投与かドーパミン様物質投与か・効果量計算に必要なサマリー統計に関する情報
その後変量効果メタ解析モデルを用いてSTN DBS前後の連続的効果を評価しました。
612名の患者を含む28のコホート研究の変量効果メタ解析を行った結果、遂行機能・言語学習・記憶にわずかながら有意な低下が見られました。中等度の低下が見られたのは意味的流暢性と音素的流暢性のみでした。語の流暢性の変化と患者の年齢・疾病の期間・刺激パラメータ・手術後のドーパミン様物質投与量の変化との関連はありませんでした。
以上の結果から、STN DBSは認知的観点からは比較的安全であると思われます。しかし語の流暢性の変化の原因特定が困難なことから、各パラメータ(患者選択・人口統計・疾病・治療法・術式・刺激・臨床的効果)に関する均一で詳細な報告が必要であると考えられます。
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